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【解説・配点付き】2025年鹿児島大学医学部・物理の解答・解説

2025年の鹿児島大学医学部・物理の、
解答・解説【完全版】です。

方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。

このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。

目次

2025年鹿児島大学医学部物理
第1問 解答・解説

この記事の小問ごとの配点は鹿児島大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。

第1問は力学の問題です。
テーマは「あらい上面の台車に乗り移ってすべる小物体(動摩擦力による加速度・一体になる時刻と速度)、動摩擦力の仕事で失われた運動エネルギーと台車の上ですべった距離の関係、ばねで減速する一体の台車の上で小物体がすべり始める縮み(静止摩擦の限界)」。

問題

2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 問題
2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 問題
問題文をテキストで読む

質量 $m$ の小物体と水平なあらい上面を持つ質量 $M$ の台車の運動について、次の【実験1】と【実験2】の説明を読み、(1)〜(7)に答えよ。重力加速度の大きさを $g$、小物体と台車の上面との間の静止摩擦係数および動摩擦係数をそれぞれ $\mu$ および $\mu’$ とする。小物体の大きさは無視でき、一旦台車の上面にのった小物体は台車の上面から落ちることはないものとする。台車は床の上をなめらかに運動できるものとする。図の右向きを速度および加速度の正の向きとする。運動はすべて同一鉛直面内で行われるものとする。

【実験1】図1-1に示すように、小物体が摩擦のないなめらかな水平面PQ上を右向きに速さ $v_0$ で運動している。台車は水平面Q′R′上に静止しており、台車の上面は水平面PQと同じ高さでなめらかに接続している。やがて小物体は点Qにおいて台車の上面に乗り移り、台車の上面をすべり始めた。

(1) 小物体が台車の上面をすべっている間の小物体の加速度 $a$ と台車の加速度 $A$ を求めよ。

(2) 小物体が台車の上面に乗り移った瞬間の時刻を $t=0$ とする。小物体が台車の上面をすべっている間の時刻 $t$ における小物体の速度 $v$ および台車の速度 $V$ を求めよ。

(3) やがて小物体と台車は同じ速度になり、一体となって運動し始めた。小物体と台車が一体となって運動し始めた時刻 $t_1$ と、そのときの小物体と台車の速度 $V_1$ を求めよ。

(4) 小物体が台車に乗り移る前の運動エネルギー $K_1$ と、小物体と台車が一体となって運動し始めた後の小物体と台車の運動エネルギーの和 $K_2$ を求めよ。なお、解答には $V_1$ を用いてよい。

(5) 小物体が台車の上面をすべった距離 $d$ と $K_1$、$K_2$ の関係を示せ。

【実験2】図1-2に示すように、小物体をのせた台車が一体として右向きに運動している。その後、台車は右側の壁に取り付けたばね定数 $k$ のばねの左端に衝突し、ばねが縮み始めた。

(6) 台車がばねに衝突してしばらくの間は小物体が台車の上面をすべることはなかった。この間においてばねが自然の長さから $x$ だけ縮んだときの台車と小物体の加速度 $a_1$ を求めよ。

(7) ばねの縮みが $x_0$ を超えたとき、小物体は台車の上面をすべり始めた。$x_0$ を求めよ。

解答の方針

【実験1の方針】

着眼点

小物体が台車の上をすべっている間、小物体と台車は別々の加速度で動く。力の図は「重力 → 触れているもの」の順に書く(下の図)。小物体にはたらく力は、重力 $mg$、台車からの垂直抗力 $N$、台車からの動摩擦力。小物体は台車に対して右へすべるので、動摩擦力は小物体には左向き、作用反作用で台車には右向きにはたらく。大きさはどちらも $\mu’N$ で、鉛直方向のつり合いから $N=mg$。台車を水平に押す力はこの動摩擦力だけなので、物体ごとに運動方程式を立てれば、どちらの加速度も一定になる。

2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 解答の方針の図
2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 解答の方針の図

(図の印は「同じ大きさ」の組ごとに変えている。動摩擦力どうしは2本線、垂直抗力どうしは丸印)

「同じ速度になる」は、2つの速度の式を等しいとおけばよい。

(5) の「台車の上面をすべった距離」 $d$ は、床に対する距離ではなく台車に対するずれ。すべった距離は台車に乗って見る(相対系):相対加速度・相対初速度・相対の終速度の3点セットで等加速度運動の式に入れる。失われた運動エネルギーは「動摩擦力×相対距離」 $\mu’mgd$ で、その分が摩擦による熱になる(なぜそうなるかは、床から見た物体ごとの $W=\Delta E$ を足すと分かる=別解)。

  1. 右向きを正として、小物体 $ma=-\mu’mg$、台車 $MA=\mu’mg$ を立て、 $a$、 $A$ を求める。
  2. 等加速度運動の速度の式 $v=v_0+at$、 $V=0+At$ に代入して、 $v$、 $V$ を求める。
  3. $v=V$ とおいて $t_1$ を求め、 $V$ の式に代入して $V_1$ を求める。摩擦力は内力なので、運動量保存 $(M+m)V_1=mv_0$ で確かめる。
  4. 運動エネルギーの定義から $K_1$、 $K_2$ を書く。
  5. 台車に乗って見て、相対加速度 $a-A$・相対初速度 $v_0$・相対の終速度0から $d$ を求める。(3)(4) から $K_1-K_2$ を計算し、 $\mu’mgd$ と等しいことを示す。

【実験2の方針】

着眼点

ばねに当たってしばらくは小物体がすべらないので、台車と小物体は同じ加速度 $a_1$ で動く。一体で動いていても、物体ごとに力の図と運動方程式を立てる(下の図)。台車を水平に押す力は、ばねの弾性力 $kx$(左向き)と小物体からの静止摩擦力。小物体を水平に押す力は、台車からの静止摩擦力だけ。台車がばねで減速すると、小物体はそのままの速度で進もうとして台車に対して右へずれようとするので、小物体にはたらく静止摩擦力は左向き(作用反作用で台車には右向き)。

2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 解答の方針の図
2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 解答の方針の図

(図の印は、静止摩擦力どうしが2本線、垂直抗力どうしが丸印)

ばねが縮むほど減速は大きくなり、小物体を台車と同じ加速度で減速させるのに必要な静止摩擦力も大きくなる。これが最大静止摩擦力 $\mu N$ を超えた所で、小物体はすべり始める。すべり始めの判定なので、使う係数は静止摩擦係数 $\mu$( $\mu’$ はすべっている間の係数)。

  1. 右向きを正、共通の加速度を $a_1$、静止摩擦力の大きさを $f$ として、小物体 $ma_1=-f$、台車 $Ma_1=-kx+f$ を立てる。2式を足して $f$ を消し、 $a_1$ を求める。
  2. 小物体の式に $a_1$ を戻して $f=\dfrac{mkx}{M+m}$ を求め、すべらない条件 $f\leqq\mu N$( $N=mg$)を立てる。
  3. この条件が破れて $f>\mu N$ になる境目の縮みが $x_0$。

解答

2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 解答・解説
2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 解答・解説
2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 解答・解説(続き)
2025年鹿児島大学医学部物理 第1問 解答・解説(続き)
解答をテキストで読む

(1)

右向きを正とする。小物体は台車に対して右へすべるので、小物体が受ける動摩擦力は左向き、台車が受ける動摩擦力は作用反作用で右向き。鉛直方向のつり合いから、小物体が台車から受ける垂直抗力は $N=mg$ で、動摩擦力の大きさは $\mu’N=\mu’mg$。物体ごとに水平方向の運動方程式を立てる。

$$\text{小物体:}\ ma=-\mu’mg\qquad\therefore\ a=-\mu’g$$

答 $a=-\mu’g$(3点)

$$\text{台車:}\ MA=\mu’mg\qquad\therefore\ A=\frac{\mu’mg}{M}$$

答 $A=\dfrac{\mu’mg}{M}$(3点)

(2)

どちらの加速度も一定なので、等加速度運動の速度の式を使う。時刻0の速度は、小物体が $v_0$、台車が0。

$$v=v_0+at=v_0-\mu’gt$$

答 $v=v_0-\mu’gt$(3点)

$$V=0+At=\frac{\mu’mg}{M}t$$

答 $V=\dfrac{\mu’mg}{M}t$(3点)

(3)

一体となって運動し始める時刻は、2つの速度が等しくなる時刻。 $v=V$ とおいて

$$v_0-\mu’gt_1=\frac{\mu’mg}{M}t_1\qquad\therefore\ t_1=\frac{v_0}{\mu’g\left(1+\dfrac mM\right)}=\frac{Mv_0}{\mu'(M+m)g}$$

答 $t_1=\dfrac{Mv_0}{\mu'(M+m)g}$(4点)

これを $V$ の式に代入して

$$V_1=\frac{\mu’mg}{M}\cdot\frac{Mv_0}{\mu'(M+m)g}=\frac{m}{M+m}v_0$$

答 $V_1=\dfrac{m}{M+m}v_0$(4点)

(確かめ:床はなめらかで、小物体と台車の間の摩擦力は内力。水平方向に外力がはたらかないので運動量が保存し、 $(M+m)V_1=mv_0$ からも同じ $V_1$ になる)

(4)

乗り移る前は小物体だけが速さ $v_0$ で動いている。一体になった後は、小物体と台車がどちらも速さ $V_1$。

答 $K_1=\dfrac12mv_0^{\,2}$(3点)

答 $K_2=\dfrac12(M+m)V_1^{\,2}$(3点)

(5)

すべった距離 $d$ は台車に乗って見る(相対系)。台車に乗った人から見ると、小物体の相対加速度は $a-A=-\dfrac{(M+m)\mu’g}{M}$、相対初速度は $v_0$、一体になったときの相対速度は0。等加速度運動の式から

$$0^2-v_0^{\,2}=2(a-A)d\qquad\therefore\ d=\frac{Mv_0^{\,2}}{2\mu'(M+m)g}$$

一方、(3)(4) より

$$K_1-K_2=\frac12mv_0^{\,2}-\frac12(M+m)\left(\frac{m}{M+m}v_0\right)^2=\frac{mMv_0^{\,2}}{2(M+m)}=\mu’mg\cdot\frac{Mv_0^{\,2}}{2\mu'(M+m)g}=\mu’mgd$$

よって

答 $K_2-K_1=-\mu’mgd$( $K_1-K_2=\mu’mgd$ と同じ)(8点)

失われた運動エネルギー $K_1-K_2$ は、動摩擦力の大きさ $\mu’mg$ と台車に対してすべった距離 $d$ の積(摩擦力×相対距離)に等しく、その分が摩擦による熱になる。

(確かめ) $d$ は $v$-$t$ グラフでも求まる。2本の直線の間の三角形の面積が、台車に対してすべった距離(下の図)。 $d=\dfrac12v_0t_1=\dfrac{Mv_0^{\,2}}{2\mu'(M+m)g}$ で同じ値になる。

(6)

右向きを正とし、台車と小物体に共通の加速度を $a_1$ とする。台車がばねで減速すると、小物体は台車に対して右へずれようとするので、小物体が受ける静止摩擦力は左向き、台車が受ける静止摩擦力は作用反作用で右向き。その大きさを $f$ とする。台車はばねから左向きに弾性力 $kx$ を受ける。一体で動いていても、物体ごとに運動方程式を立てる。

$$\begin{cases}\text{小物体:}\ ma_1=-f\\[2pt]\text{台車:}\ Ma_1=-kx+f\end{cases}$$

2式を足して $f$ を消すと

$$(M+m)a_1=-kx\qquad\therefore\ a_1=-\frac{kx}{M+m}$$

答 $a_1=-\dfrac{kx}{M+m}$(7点)

(7)

(6) の小物体の式に $a_1$ を戻すと、小物体を台車と一緒に動かすのに必要な静止摩擦力の大きさは

$$f=-ma_1=\frac{mkx}{M+m}$$

で、縮み $x$ に比例して大きくなる。鉛直方向のつり合いから $N=mg$。小物体がすべらない条件は、静止摩擦力が最大静止摩擦力以下であること。

$$f\leqq\mu N\qquad\therefore\ \frac{mkx}{M+m}\leqq\mu mg\qquad\therefore\ x\leqq\frac{\mu(M+m)g}{k}$$

縮みがこの値を超えると $f>\mu N$ となり、静止摩擦力では足りなくなって小物体はすべり始める(下の図)。

答 $x_0=\dfrac{\mu(M+m)g}{k}$(9点)

(すべり始めの判定なので、係数は静止摩擦係数 $\mu$。動摩擦係数 $\mu’$ は使わない)

別解

(5) (床から見て物体ごとに $W=\Delta E$。「摩擦力×相対距離」になる理由) 床から見て、時刻0から $t_1$ までに台車が $X$、小物体が $X+d$ 進んだとする( $d$ は台車に対してすべった距離。下の図)。

動摩擦力の大きさは $\mu’mg$ で一定。小物体には運動と逆向き(左向き)にはたらくので仕事は $-\mu’mg(X+d)$、台車には運動と同じ向き(右向き)にはたらくので仕事は $+\mu’mgX$。物体ごとに $W=\Delta E$( $W=E_後-E_前$)を立てる。

$$\begin{cases}\text{小物体:}\ -\mu’mg(X+d)=\dfrac12mV_1^{\,2}-\dfrac12mv_0^{\,2}\\[6pt]\text{台車:}\ \mu’mgX=\dfrac12MV_1^{\,2}-0\end{cases}$$

2式を足すと $X$ が消えて

$$-\mu’mgd=\frac12(M+m)V_1^{\,2}-\frac12mv_0^{\,2}=K_2-K_1$$

となり、本解と同じ関係が直接示せる。摩擦力は2物体に作用反作用で同じ大きさにはたらくので、床から見た移動距離の差(=相対距離)の分だけ仕事が打ち消し合わずに残る。これが「摩擦力×相対距離」の理由。

(6)

小物体と台車を1つの物体(質量 $M+m$)と見ると、水平方向の外力はばねの弾性力 $-kx$ だけで、 $(M+m)a_1=-kx$ がすぐに立つ。ただし (7) では小物体だけの式 $ma_1=-f$ が要るので、本解のように物体ごとに立てておく方が速い。

出題意図

(1)〜(3):台車の上をすべる小物体と台車を、物体ごとの運動方程式と速度の式で捉えることができるか。

(4)(5) 動摩擦力がする仕事から、失われた運動エネルギーが「動摩擦力×台車に対してすべった距離」になることを示せるか

(6)(7) 一体で動く2物体でも物体ごとに運動方程式を立て、小物体を加速させる静止摩擦力と最大静止摩擦力を比べることができるか

講評

難易度標準
目標得点40点
目標時間15分

この大問は超典型問題で、力を正確に図示すれば難しい所はない。
(6) は力を図示して運動方程式を立てるだけで、(7) も良問の風の後半〜名問の森の典型問題が解ければ解ける。
差がつくとしたら、すべての力を正確に図示できるかと、典型問題をしっかり網羅できているか。
名問の森のレベルまで解けるようにしておけば、満点が狙える大問だ。

差がつく所・失点しやすい所

  • 差がつくとしたら、すべての力を正確に図示できるかと、典型問題をしっかり網羅できているか。(6) は力を正確に図示して運動方程式を立てるだけ、(7) も良問の風の後半〜名問の森の典型問題が解ければ解ける。
  • (5):失われた運動エネルギーが「動摩擦力×台車に対してすべった距離」になる、という発想に行き着けるか。床から見た小物体の移動距離 $X+d$ で $\mu’mg(X+d)$ とすると誤り。台車も動摩擦力から正の仕事をされていることを入れて、はじめて $d$ だけが残る。
  • (7):小物体を台車と一緒に減速させている力は静止摩擦力だけ、という発想に行き着けるか。必要な静止摩擦力 $\dfrac{mkx}{M+m}$ と最大静止摩擦力 $\mu mg$ を比べる。

コラム 摩擦で失われるエネルギーは「摩擦力×ずれた距離」

動く台車の上で物体がすべるとき、摩擦で失われるエネルギーは「摩擦力×床に対して動いた距離」ではなく、「摩擦力×台車に対してずれた距離」になる。理由は、摩擦力が作用反作用のペアで、物体には負の仕事、台車には正の仕事をするから。床から見た2物体の移動距離の差だけ仕事が打ち消し合わずに残り、それがちょうど「ずれた距離」になる((5) の模範解答の図)。この型は、台車の上をすべる物体だけでなく、木材に打ちこまれる弾丸(抵抗力×入り込んだ深さ)でも同じ形で使える。「失われたエネルギー=摩擦力×相対距離」と覚えるだけでなく、床から見て物体ごとに $W=\Delta E$ を立てて足す導き方まで、白紙に再現できるようにしておこう。

2025年鹿児島大学医学部物理
第2問 解答・解説

第2問は熱力学の問題です。
テーマは「密閉した熱気球。状態方程式で物質量と 1 mol あたりの質量を求め、地表につないだまま定圧で加熱して浮き始める温度と熱量(二原子分子の定圧モル比熱 $\dfrac72R$)を求める。上空でも温度を $T_1$ 以上に保てば高度が下がらないことを、大気の密度が圧力に比例して下がることから示す。等温膨張の p-V グラフと仕事の領域を図示し、内部エネルギーの変化を答える」。

問題

2025年鹿児島大学医学部物理 第2問 問題
2025年鹿児島大学医学部物理 第2問 問題
問題文をテキストで読む

次の熱気球に関する文章を読み、あとの問いに答えよ。

空気が密閉された風船(球皮)とヒーター、ゴンドラなどの装置から構成される気球がある。地表における大気圧は $P_0$、大気の密度は $\rho$ であるとする。球皮は気体を通さず、球皮内の空気と外部の大気の間で熱のやり取りはないものとする。また、球皮は自由に伸縮するため内外の圧力は等しく、球皮の張力が気体にする仕事は無視できる。球皮内の空気および大気は同一の二原子分子理想気体であるものとし、大気の絶対温度は高度によらず $T_0$ で一定とする。球皮が接地しており、球皮内の空気の体積が $V_0$、絶対温度が $T_0$ である状態を状態Aとする。このとき、球皮内の空気の密度は $\rho$ である。球皮と装置の体積は無視できるものとし、それらの質量の合計は球皮内の空気の質量の $\alpha$ 倍であるとする。したがって、球皮内の空気を含む気球全体の質量は $(1+\alpha)\rho V_0$ である。気体定数を $R$、定積モル比熱を $C_V=\dfrac{5}{2}R$ とする。ヒーターの熱容量は無視できるものとする。

(1) 球皮内の空気の物質量[mol]を、$P_0$、$V_0$、$T_0$、$R$ を用いて答えよ。

(2) 球皮内の空気1 molあたりの質量を、$\rho$、$P_0$、$T_0$、$R$ を用いて答えよ。

(3) ゴンドラをロープで地表につなぎ留めたまま、球皮内の空気をヒーターでゆっくりと加熱したところ、球皮内の空気の絶対温度が $T_1$ に達したとき気球が浮き始めた(状態B)。この絶対温度 $T_1$ と、状態Aから状態Bまでにヒーターで加えた熱量 $Q_1$ を答えよ。

(4) ゴンドラをつないでいたロープを切ると気球はゆっくりと上昇した。高度が上がって大気圧が $P_0$ より低くなっても、球皮内の空気の絶対温度を $T_1$ 以上に保てば気球の高度は下がらないことを示せ。

(5) 球皮内の空気の絶対温度を $T_1$ に維持し、気球がゆっくり上昇するようヒーターを制御して、ある高度に達したところでヒーターを止めた(状態C)。この高度での大気圧は $P$ で、球皮内の空気の体積 $V$ は、状態Bの体積の3倍だった。解答欄のグラフ中には状態Bの位置が与えられている。状態Bから状態Cまでの球皮内の空気の圧力と体積の関係を図示せよ。状態Bの体積は $V_1$ とする。また、この過程で球皮内の空気が大気に対してした仕事と面積が等しくなる領域をグラフ中に斜線で示せ。

(6) 状態Bから状態Cまでにヒーターで加えた熱量を $Q_2$ とする。この過程における球皮内の空気の内部エネルギーの変化 $\varDelta U$ を答えよ。

解答の方針

着眼点

(1)(2) は、状態Aの状態方程式を立てるだけで即答できる。

熱気球は、最初に「密閉か、下が開いているか」を確かめる。この問題の球皮は気体を通さない=密閉した気球なので、中の空気の物質量 $n$ と質量 $\rho V_0$ はずっと変わらない。加熱すると球皮がふくらんで体積が増え、変わるのは浮力の方(下が開いた気球では、中の空気が出ていって中が軽くなる。ここが逆)。

力は3つ。重力として中の空気の重さ $\rho V_0g$ と球皮・装置の重さ $\alpha\rho V_0g$ 、触れているもの(まわりの大気)から浮力。浮力は「外の大気の密度 × 気球の体積 × $g$」で、中の空気の密度は使わない(下の図)。

2025年鹿児島大学医学部物理 第2問 解答の方針の図
2025年鹿児島大学医学部物理 第2問 解答の方針の図

(3) は熱気球の典型問題で、力のつり合いを考える。浮力が、気球(球皮・装置)の重さと中の空気の重さの和に等しくなった所で浮き始める。そのうえで、まず A→B が定圧変化であることを確かめる。根拠は、球皮が自由に伸縮して内外の圧力が等しいことと、地表につないだままなので外の大気圧が $P_0$ のままであること。よって中の圧力も $P_0$ で一定。状態方程式の $P_0$ と $nR$ が一定なので $V\propto T$ で、つり合いから浮き始めの体積が分かれば、温度は比で求まる。熱量は、温度が分かっているので $Q=nC_p\varDelta T$ で求める。二原子分子なので $C_p=C_V+R=\dfrac72R$ (単原子の 5:3:2 は使えない。二原子では $C_p:C_V:R=7:5:2$)。

(4) は証明問題で、書き方に迷いやすい。上空では外の大気の密度も変わることが決め手。大気の温度は $T_0$ で一定なので、密度は圧力に比例して $\rho\dfrac{P}{P_0}$ に下がる。一方、中の空気は温度 $T_1$ のままなら体積が $\dfrac{P_0}{P}$ 倍にふくらむ。密度が下がる分と体積が増える分が打ち消し合い、浮力は地表と同じになる。

(5)(6) は温度 $T_1$ を保ったままの膨張なので等温変化。p-V 図では $PV$ 一定の双曲線で、仕事は曲線の下の面積。等温なので内部エネルギーは変わらない。

  1. 状態Aの状態方程式 $P_0V_0=nRT_0$ から $n$ を求める((1))。
  2. 中の空気の質量 $\rho V_0$ を $n$ で割り、1 mol あたりの質量を求める((2))。
  3. 定圧なので $V\propto T$ 。浮き始めのつり合い $\rho V_1g=(1+\alpha)\rho V_0g$ から $V_1=(1+\alpha)V_0$ 、比で $T_1$ を求める。 $Q_1=n\cdot\dfrac72R(T_1-T_0)$ に $nRT_0=P_0V_0$ を入れて $Q_1$ を求める((3))。
  4. 大気圧 $P$ の高度で、外の密度 $\rho\dfrac{P}{P_0}$ と中の体積 $V$ から浮力を書き、「浮力 $\geqq$ 重さ」を $PV\geqq P_0V_1$ に直す。状態方程式で $T\geqq T_1$ と同じ条件だと示す((4))。
  5. 等温なので $PV=P_0V_1$ 。体積 $3V_1$ で圧力 $\dfrac{P_0}{3}$ 。状態Bから状態Cまでの双曲線を書き、曲線の下(体積 $V_1$ から $3V_1$ まで)に斜線を引く((5))。
  6. 等温なので $\varDelta U=0$ ((6))。

解答

2025年鹿児島大学医学部物理 第2問 解答・解説
2025年鹿児島大学医学部物理 第2問 解答・解説
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(1)

状態Aの球皮内の空気(圧力 $P_0$ 、体積 $V_0$ 、温度 $T_0$)について状態方程式 $P_0V_0=nRT_0$ より

答 $\dfrac{P_0V_0}{RT_0}$ [mol](6点)

(2)

状態Aの球皮内の空気の密度は $\rho$ なので、質量は $\rho V_0$ 。これを (1) の物質量で割ると、1 mol あたりの質量は

$$\frac{\rho V_0}{\ \dfrac{P_0V_0}{RT_0}\ }=\frac{\rho RT_0}{P_0}$$

答 $\dfrac{\rho RT_0}{P_0}$(6点)

(密度の形の状態方程式 $P=\dfrac{\rho}{m_0}RT$ ( $m_0$ は 1 mol あたりの質量)を $m_0$ について解いたものと同じ)

(3)

球皮は自由に伸縮するので内外の圧力は等しく、地表につないだままなので外の大気圧は $P_0$ のまま。よって A→B は定圧変化。中の空気は密閉されているので物質量 $n$ は変わらない。 $P_0V=nRT$ で $P_0$ と $nR$ が一定なので $V\propto T$ 。

浮き始める瞬間は、地面とロープから受ける力が0になり、浮力と重さがつり合う。浮力は外の大気(密度 $\rho$)を気球の体積 $V_1$ だけ押しのけた分なので

$$\rho V_1g=(1+\alpha)\rho V_0g\qquad\therefore\ V_1=(1+\alpha)V_0$$

体積が $(1+\alpha)$ 倍なので、温度も $(1+\alpha)$ 倍。

答 $T_1=(1+\alpha)T_0$(7点)

加えた熱量は、定圧変化なので定圧モル比熱 $C_p$ を使う。二原子分子では $C_p=C_V+R=\dfrac72R$ 。

$$Q_1=nC_p(T_1-T_0)=n\cdot\frac72R\cdot\alpha T_0=\frac72\alpha\cdot nRT_0$$

状態Aの状態方程式 $nRT_0=P_0V_0$ で書きかえて

答 $Q_1=\dfrac72\alpha P_0V_0$(7点)

(確かめ:した仕事は $W=P_0(V_1-V_0)=\alpha P_0V_0$ 。二原子分子の定圧変化では $Q:\varDelta U:W=7:5:2$ なので $Q_1=\dfrac72W=\dfrac72\alpha P_0V_0$ で一致する)

(4)

大気圧が $P$ の高度で、球皮内の空気の温度を $T$ 、体積を $V$ とする(下の図)。

・大気の温度は高度によらず $T_0$ なので、大気の密度は圧力に比例し( $\rho\propto\dfrac PT$ で $T$ が一定)、この高度では $\rho\dfrac{P}{P_0}$

・球皮内の圧力は外と等しく $P$ 。物質量は $n$ のままなので $PV=nRT$ 。状態Bでは $P_0V_1=nRT_1$

・気球全体の質量は $(1+\alpha)\rho V_0$ のまま変わらない。(3) より $(1+\alpha)\rho V_0=\rho V_1$

浮力の大きさは $\rho\dfrac{P}{P_0}Vg$ 、重さは $(1+\alpha)\rho V_0g=\rho V_1g$ 。高度が下がらない(浮力 $\geqq$ 重さ)条件は

$$\rho\frac{P}{P_0}Vg\geqq\rho V_1g\iff PV\geqq P_0V_1\iff nRT\geqq nRT_1\iff T\geqq T_1$$

よって、大気圧 $P$ がいくらであっても、球皮内の空気の温度を $T_1$ 以上に保てば浮力は重さ以上になり、気球にはたらく力の合力は上向きか0。ゆえに気球の高度は下がらない。

答 $T\geqq T_1$ なら浮力 $\geqq$ 重さとなり、高度は下がらない(上の導出)(10点)

(浮力を $P$ を使わずに書くと $\rho\dfrac{P}{P_0}\cdot\dfrac{nRT}{P}g=\dfrac{\rho nRT}{P_0}g$ で、 $P$ が消える。高度が上がると外の密度は下がるが、そのぶん気球がふくらむので、温度が同じなら浮力は変わらない。温度 $T_1$ ではどの高度でも浮力と重さがちょうどつり合う)

(5)

状態Bから状態Cまで温度 $T_1$ を保つので等温変化。 $PV=nRT_1$ が一定で、 $PV=P_0V_1$ 。状態Cでは体積 $3V_1$ なので

$$P\cdot3V_1=P_0V_1\qquad\therefore\ P=\frac{P_0}{3}$$

圧力と体積の関係は、状態B $(V_1,\ P_0)$ から状態C $(3V_1,\ \dfrac{P_0}{3})$ まで、反比例の曲線(双曲線)になる。球皮内の圧力はいつも外の大気圧と等しいので、球皮内の空気が大気に対してした仕事は、この曲線と体積の軸の間で、体積 $V_1$ から $3V_1$ までの部分の面積(斜線)。

答 下の図(状態Bから状態Cまでの双曲線と、その下の斜線部)(9点)

(参考:問われていないが、この仕事は $W=nRT_1\log_e3=P_0V_1\log_e3$ )

(6)

B→C は温度 $T_1$ のままの等温変化。内部エネルギーは温度だけで決まり、 $\varDelta U=nC_V\times(T_1-T_1)=0$ 。

答 $\varDelta U=0$(5点)

(第一法則 $Q_2=\varDelta U+W$ より $Q_2=W$ 。ヒーターで加えた熱はすべて、球皮をふくらませて大気を押しのける仕事に使われる)

別解

(3) $Q_1$ (第一法則で1つずつ)  $\varDelta U=nC_V(T_1-T_0)=\dfrac52nR\alpha T_0=\dfrac52\alpha P_0V_0$ 、 $W=P_0(V_1-V_0)=\alpha P_0V_0$ 。 $Q_1=\varDelta U+W=\dfrac72\alpha P_0V_0$ 。

(4) (浮力が $P$ によらないことを先に示す) 浮力 $=\rho\dfrac{P}{P_0}\cdot\dfrac{nRT}{P}g=\rho V_0\dfrac{T}{T_0}g$ ( $nR=\dfrac{P_0V_0}{T_0}$ を代入)で、大気圧 $P$ によらず温度 $T$ だけで決まる。 $T=T_1=(1+\alpha)T_0$ なら浮力は $(1+\alpha)\rho V_0g$ で重さと等しく、 $T\geqq T_1$ なら浮力 $\geqq$ 重さ。

出題意図

(1)(2) 状態方程式から物質量を求め、密度と結びつけて 1 mol あたりの質量を表すことができるか

(3) 地表につないだまま加熱する変化が定圧変化だと見抜き、浮き始めの力のつり合いと二原子分子の定圧モル比熱から温度と熱量を求めることができるか

(4) 高度が上がると大気の密度も圧力に比例して下がることを捉え、浮力が高度によらないことを式で示すことができるか

(5)(6) 温度一定の膨張を p-V 図の双曲線として表し、仕事が曲線の下の面積になること、等温では内部エネルギーが変わらないことが理解できているか

講評

難易度標準
目標得点40点
目標時間15分

熱気球は、良問の風にも名問の森にも同じ型の問題が載っている典型問題。
この問題の気球は密閉されていて、温度を上げると中の空気がふくらみ、気球全体が周りの大気より軽くなる(平均の密度が下がる)ので浮く。
浮き始めは力のつり合い、(1)(2) は状態方程式を立てるだけ。
解法を一般化して、密閉した気球でも下が開いた気球でも、どんな状況でも使えるようにしておこう。
熱力学は典型問題が出やすく、解法が単調になる分野なので、この熱気球を含めて確実に満点を取りたい。

差がつく所・失点しやすい所

  • (4):証明問題で書きにくい。高度が上がると外の大気の密度も $\dfrac{P}{P_0}$ 倍に下がることを入れて説明できるか。「気球がふくらむから浮力が大きくなる」だけの説明は、密度が下がる分を考えていないので不十分(温度 $T_1$ では浮力は重さとちょうど等しい)。
  • (3):浮き始めを力のつり合いで捉え、つないだままの加熱が定圧変化だと見抜いて、二原子分子の定圧モル比熱 $\dfrac72R$ を使えるか。定積の $\dfrac52R$ や単原子の $\dfrac52R$ (定圧)を使うと $Q_1$ を落とす。
  • (5):状態Cの圧力 $\dfrac{P_0}{3}$ を求め、双曲線と「曲線の下」の斜線を正しく書けるか。

コラム 熱気球には「開いた気球」と「密閉した気球」がある

熱気球の問題は、まず気球の種類を確かめる。種類によって、加熱したときに変わるものが逆になるからだ。

2025年鹿児島大学医学部物理 第2問 コラムの図
2025年鹿児島大学医学部物理 第2問 コラムの図
  • 下が開いた気球(実際の熱気球):観光やスポーツで飛ぶ熱気球は、球皮の下に口が開いていて、その下のバーナーで中の空気を温める。温められた空気はふくらんで口から外へ出ていくので、中の空気の量が減り、中が軽くなる。浮力(外の空気の密度 × 球皮の体積 × $g$)はほぼ変わらず、中の空気の重さが減ることで浮く。下りるときは、球皮のてっぺんの弁を開けて熱い空気を逃がす。良問の風70・名問の森45 はこの形。
  • 密閉した気球(この問題):中の空気は出ていかないので、中の空気の重さは変わらない。加熱すると球皮がふくらみ、押しのける大気の体積が増えて、浮力の方が増えることで浮く。(3) の $V_1=(1+\alpha)V_0$ がこれ。
  • 上空での違い:下が開いた気球は、中の温度を一定にしても、上空では外の空気も中の空気も圧力に比例して薄くなるので、浮く力(浮力と中の空気の重さの差)がだんだん小さくなり、ある高度で止まる(名問の森45)。一方、密閉した気球は (4) のとおり、温度が同じなら浮力は高度によらない。球皮が自由にふくらめる限り、どこまでも下がらない。
  • 身近な密閉した気球:気象庁が上空の気温や風を測るラジオゾンデは、水素やヘリウムを入れたゴム気球(空気を温める熱気球とは浮く仕組みが違うガス気球)につるして飛ばす。ゴム気球は閉じているので、この問題と同じく中の気体の物質量は変わらない。上空ほど外の圧力 $p$ が小さいので、(4) と同じく $pV=nRT$ で体積 $V$ がふくらみ続け、やがてゴムが伸びられる限界を超えて割れる(高度はおよそ30 km)。この問題の「球皮は自由に伸縮する」は、この限界がないとした理想化。

気球の問題で迷ったら、「密閉か、下が開いているか」「加熱で変わるのは中の重さか、浮力か」の2点を最初に確かめよう。

2025年鹿児島大学医学部物理
第3問 解答・解説

第3問は電磁気の問題です。
テーマは「雷を雲と地表のコンデンサーと見る静電気の語句とオームの法則・電気量、等電位線に直交する電気力線の作図、誘電体を入れた2つのコンデンサーの直列とスイッチの切りかえ」。

問題

2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 問題
2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 問題
問題文をテキストで読む

静電気現象について、以下の問いに答えよ。

(1) 次の文章中の空欄(   )に入る最も適当な語句または数値を答えよ。ただし、①〜③の答えは選択肢から選び、④と⑤の答えは有効数字2桁で表せ。

物体が電気を帯びることを( ① )といい、様々な電気現象を引き起こす。ここでは、雷に注目し、雷雲内の電荷分布を単純化して静電気現象を考えることにする。雷雲内の氷の粒は、粒同士の衝突によって電気を帯びることが知られている。正電荷を持つ氷の粒が雷雲の上層部、負電荷を持つ氷の粒が雷雲の下層部に集まったとすると、雷雲の下層部と地表の間で( ② )が起こり地表に正電荷が現れる。雷雲内で氷の粒の衝突が続くと、雷雲の上層部、雷雲の下層部と地表の電荷が増加し、上層部と下層部の間、及び下層部と地表の間の電位差が大きくなる。いま、雷雲の下層部と地表をコンデンサーの電極とみなす。もし、雷雲の下層部と地表の間の電位差がある限界以上の大きさになると、コンデンサーの極板間の( ③ )が破れて空気を介して電荷が移動し、この間に電流が流れる。

いま、雷雲の下層部と地表の電位差が $1.0\times10^{9}\ \mathrm{V}$ のときに、$1.0\times10^{5}\ \mathrm{A}$ の電流が $1.0\times10^{-3}\ \mathrm{s}$ の間流れたとする。雷雲の下層部と地表の間の電気抵抗は( ④ )$\Omega$ となり、この間を移動した電気量は( ⑤ )C である。

| 選択肢 | |

|—|—|

| 静電気力 | 放電 |

| 帯電 | 耐電圧 |

| 導体 | 絶縁 |

| 不導体 | 静電誘導 |

| 充電 | 静電遮へい |

(2) 2枚の導体板AとBを平行に並べ、導体板Aを直流電源の正極(+極)、導体板Bを直流電源の負極(-極)に接続して、これらの導体板に電圧を加えたところ、図3-1に示すような等電位線が得られた。導体板A上の点aと点bから導体板Bに向かう電気力線をそれぞれ描き、それらの向きを矢印で示せ。

(3) 図3-2に示すように、平行板コンデンサーAとB、スイッチ $\mathrm{S_1}$ と $\mathrm{S_2}$、電圧 $V$ の直流電源で構成された回路がある。コンデンサーAとBにおいて、それぞれの極板の面積は $S$、極板間隔は $d_{\mathrm{A}}$ と $d_{\mathrm{B}}$ であり、極板間はそれぞれ誘電率 $\varepsilon_{\mathrm{A}}$ と $\varepsilon_{\mathrm{B}}$ の誘電体で満たされている。はじめ、2つのコンデンサーに電荷は蓄えられていない。また、2つのコンデンサーにおいて、極板の周辺部における電界の乱れは無視でき、極板間の電界は一様であるものとする。以下の問いに答えよ。

(i) コンデンサーAとBを直列に接続したときの合成容量 $C_{\mathrm{AB}}$ を求めよ。

(ii) 図3-2(a)に示すように、スイッチ $\mathrm{S_2}$ を開いた状態で、スイッチ $\mathrm{S_1}$ を閉じて、時間が十分に経過した。このとき、コンデンサーAとBの極板間における電界 $E_{\mathrm{A}}$ と $E_{\mathrm{B}}$ を求めよ。また、導出過程も記述すること。

(iii) (ii)の操作において、コンデンサーAとBに蓄えられた電気量がいずれも $Q_0$ となった。その後、図3-2(b)に示すように、スイッチ $\mathrm{S_1}$ を開いた後、スイッチ $\mathrm{S_2}$ を閉じ、時間が十分に経過した。このとき、コンデンサーAとBの極板間における電界 $E_{\mathrm{A}}{}’$ と $E_{\mathrm{B}}{}’$ を求めよ。

解答の方針

【(1)の方針】

着眼点

(1) は標準的な知識問題と、電流と電気量の関係だけ。①〜③は教科書の語句。雷雲の下層部(負)が近づくと、地表の負の電荷が遠ざけられて地表の表面に正の電荷が現れる。これが静電誘導。極板の間の空気が電気を通さない性質が絶縁で、電位差が大きくなりすぎると絶縁が破れて放電する。④⑤は、下層部と地表の間をひとつの抵抗と見てオームの法則 $V=RI$。電流は電気量の時間変化( $I=\dfrac{\varDelta Q}{\varDelta t}$)なので、電流が一定なら電気量=電流×時間( $Q=It$)。

  1. 文章の流れから①〜③の語句を選ぶ。
  2. $R=\dfrac VI$ で④を求める。
  3. $Q=It$ で⑤を求める。

【(2)の方針】

着眼点

(2) は、等電位線と電気力線が直交することを知っていれば、丁寧に作図するだけ。等電位線は電位が等しい点を結んだ線で、電気力線はこれと直角に交わる(等電位線にそって電荷を動かしても仕事は0なので、電場は等電位線にそった成分を持たない)。また、導体板の表面は等電位なので、電気力線は導体板の表面から垂直に出る。向きは正極につないだAから負極につないだBへ(電位の高い方から低い方へ)。点aは導体板Aの右の面の中央なので、図の上下の対称の軸(水平な線)の上にあり、水平にまっすぐBの中央へ向かう。点bは導体板Aの上の端なので、真上に出てから大きな弧になって右へ曲がり、中央の縦の等電位線を水平に横切って、対称な位置のBの上の端へ入る。

  1. aから、等電位線と直角に交わる水平な直線をBの中央まで書く。
  2. bから、上の面に垂直に(真上に)出て、どの等電位線とも直角に交わる弧をBの上の端まで書く。
  3. どちらの線にもAからBへの向きの矢印を付ける。

【(3)の方針】

着眼点

(3) は、Q・C・V を丁寧に追っていくよくある問題で、良問の風のレベル。コンデンサーの問題は、状態ごとに図を書き、電気量 $Q$・電気容量 $C$・電圧 $V$ と電場 $E$ が変わったか変わっていないかを1つずつ追う。誘電率 $\varepsilon$ の誘電体の中の電場は、電気力線の考え方から $E=\dfrac{Q}{\varepsilon S}$ で、電場は電気量で決まる。極板間の電場が一様なら、電圧は「電場×極板間隔」。

(ii) で $\mathrm{S_1}$ を閉じると、Aの下の極板とBの上の極板をつなぐ部分は、電池にも接地にもつながっていない島になる。はじめ電荷は0なので、島の電気量の合計は0のまま。向かい合う極板は同じ大きさ・逆符号の電気量を持つので、AとBの電気量は等しい(直列)。あとは2つの電圧の和が $V$ という式で電場が決まる(下の図)。

2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 解答の方針の図
2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 解答の方針の図

(iii) で $\mathrm{S_1}$ を開くと、Aの上の極板が島になり(電池から切り離される)、電気量 $+Q_0$ のまま変わらない。電気量が変わらないので、Aの電場も変わらない。一方 $\mathrm{S_2}$ を閉じると、Bの2枚の極板が導線でつながって同じ電位になるので、Bの電圧は0、電気量も電場も0(下の図)。

2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 解答の方針の図
2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 解答の方針の図
  1. AとBの電気量を $Q$ とおき、それぞれの電場 $E_{\mathrm A}=\dfrac{Q}{\varepsilon_{\mathrm A}S}$、 $E_{\mathrm B}=\dfrac{Q}{\varepsilon_{\mathrm B}S}$ と、全体の電圧 $E_{\mathrm A}d_{\mathrm A}+E_{\mathrm B}d_{\mathrm B}$ を表す。これを $Q=C_{\mathrm{AB}}V$ と比べて $C_{\mathrm{AB}}$ を求める((i))。
  2. (ii) の状態で、島の電気量が0であることからAとBの電気量が等しいことを導き、「電圧の和=電池の電圧 $V$」の式から $Q$ を求めて $E_{\mathrm A}$、 $E_{\mathrm B}$ を求める((ii))。
  3. (iii) で、Aの上の極板が孤立して $+Q_0$ のままであることから $E_{\mathrm A}{}’$ を、Bの両極板が同じ電位になることから $E_{\mathrm B}{}’$ を求める((iii))。

解答

2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 解答・解説
2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 解答・解説
2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 解答・解説(続き)
2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 解答・解説(続き)
解答をテキストで読む

(1)

物体が電気を帯びることは帯電。

答(①) 帯電(2点)

負の電荷を持つ下層部が地表に近づくと、地表の自由電子が遠ざけられ、地表の表面に正の電荷が現れる。導体に帯電体を近づけたときに表面に電荷が現れる現象なので静電誘導。

答(②) 静電誘導(2点)

空気は電気を通さない(絶縁体)が、電位差が限界を超えると電気を通さない状態が破れて放電が起こる。この性質が絶縁。

答(③) 絶縁(2点)

下層部と地表の間を抵抗と見て、オームの法則 $V=RI$ より

$$R=\frac VI=\frac{1.0\times10^{9}}{1.0\times10^{5}}=1.0\times10^{4}\ \Omega$$

答(④) $1.0\times10^{4}$(3点)

電流は単位時間に通る電気量( $I=\dfrac{\varDelta Q}{\varDelta t}$)。電流が一定なので、移動した電気量は

$$Q=It=1.0\times10^{5}\times1.0\times10^{-3}=1.0\times10^{2}\ \mathrm C$$

答(⑤) $1.0\times10^{2}$(3点)

(2)

電気力線は等電位線と直角に交わり、導体板の表面からは垂直に出る。向きは正極につないだAから負極につないだBへ。

・点a:Aの右の面に垂直に、つまり水平に出る。aは上下の対称の軸の上にあり、この軸の上ではどの等電位線も縦に横切るので、水平な直線のままBの中央に入る。

・点b:Aの上の端の面に垂直に、つまり真上に出る。Aを包む等電位線と直角に交わりながら右へ曲がり、中央の縦の等電位線を水平に横切って、左右対称な位置にあるBの上の端へ上から入る。

答 図の太線(aからは水平な直線でBの中央へ、bからは真上に出て弧になりBの上の端へ。向きはどちらもAからB)(8点)

(3)(i)

AとBを直列につなぎ、両端に電圧 $V’$ をかけたときの電気量を $Q$ とする。直列では、間の島の電気量の合計が0で、向かい合う極板は同じ大きさ・逆符号なので、AとBの電気量はどちらも $Q$。誘電体の中の電場は電気量で決まり

$$E_{\mathrm A}=\frac{Q}{\varepsilon_{\mathrm A}S},\qquad E_{\mathrm B}=\frac{Q}{\varepsilon_{\mathrm B}S}$$

極板間の電場は一様なので、全体の電圧は「電場×極板間隔」の和で

$$V’=E_{\mathrm A}d_{\mathrm A}+E_{\mathrm B}d_{\mathrm B}=\frac{Q}{S}\left(\frac{d_{\mathrm A}}{\varepsilon_{\mathrm A}}+\frac{d_{\mathrm B}}{\varepsilon_{\mathrm B}}\right)=\frac{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}{\varepsilon_{\mathrm A}\varepsilon_{\mathrm B}S}\,Q$$

これを $Q=C_{\mathrm{AB}}V’$ と比べて

答 $C_{\mathrm{AB}}=\dfrac{\varepsilon_{\mathrm A}\varepsilon_{\mathrm B}S}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}$(8点)

(3)(ii)

(導出過程)

$\mathrm{S_1}$ を閉じて十分に時間がたつと電流は0。Aの下の極板とBの上の極板をつなぐ部分は、電池にも接地にもつながっていない島で、はじめの電気量は0なので、合計は0のまま。Aの上の極板の電気量を $Q$ とすると、向かい合う極板は同じ大きさ・逆符号なので、Aの下の極板は $-Q$、島の合計が0なのでBの上の極板は $+Q$、Bの下の極板は $-Q$。よって、AとBの電気量はどちらも $Q$ で

$$E_{\mathrm A}=\frac{Q}{\varepsilon_{\mathrm A}S},\qquad E_{\mathrm B}=\frac{Q}{\varepsilon_{\mathrm B}S}\qquad\cdots①$$

(極板間の電場は電気量で決まる。 $\varepsilon_{\mathrm A}E_{\mathrm A}=\varepsilon_{\mathrm B}E_{\mathrm B}$ )

Aの上の極板は電池の正極、Bの下の極板は負極(接地)につながっているので、2つの電圧の和は電池の電圧 $V$ に等しい。極板間の電場は一様なので

$$E_{\mathrm A}d_{\mathrm A}+E_{\mathrm B}d_{\mathrm B}=V\qquad\cdots②$$

①を②に入れて

$$\frac{Q}{S}\left(\frac{d_{\mathrm A}}{\varepsilon_{\mathrm A}}+\frac{d_{\mathrm B}}{\varepsilon_{\mathrm B}}\right)=V\qquad\therefore\ Q=\frac{\varepsilon_{\mathrm A}\varepsilon_{\mathrm B}SV}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}\ \left(=C_{\mathrm{AB}}V\right)$$

これを①に入れて

$$E_{\mathrm A}=\frac{\varepsilon_{\mathrm B}V}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}},\qquad E_{\mathrm B}=\frac{\varepsilon_{\mathrm A}V}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}$$

答 $E_{\mathrm A}=\dfrac{\varepsilon_{\mathrm B}V}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}$(6点)

答 $E_{\mathrm B}=\dfrac{\varepsilon_{\mathrm A}V}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}$(6点)

(確かめ: $E_{\mathrm A}d_{\mathrm A}+E_{\mathrm B}d_{\mathrm B}=\dfrac{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}V=V$ )

(3)(iii)

(ii) で、AとBの電気量はどちらも $Q_0$。

$\mathrm{S_1}$ を開くと、Aの上の極板は電池から切り離され、どこにもつながっていない島になる。電気量は導線を伝ってしか移動できないので、Aの上の極板の電気量は $+Q_0$ のまま。

次に $\mathrm{S_2}$ を閉じると、Bの上の極板と下の極板が導線でつながる。導線でつながった2点は同じ電位(接地しているので0)なので、Bの電圧は0で、Bの電気量も0になる(Bにあった $\pm Q_0$ は $\mathrm{S_2}$ を通って打ち消し合う)。よって

$$E_{\mathrm B}{}’=\frac{0}{\varepsilon_{\mathrm B}S}=0$$

Aの上の極板は $+Q_0$ のままなので、向かい合うAの下の極板は $-Q_0$ (島の電荷 $+Q_0$ から出た電気力線はすべて向かいの極板に入る)。Aの電気量が変わらないので、Aの電場も変わらず

$$E_{\mathrm A}{}’=\frac{Q_0}{\varepsilon_{\mathrm A}S}$$

答 $E_{\mathrm A}{}’=\dfrac{Q_0}{\varepsilon_{\mathrm A}S}$(5点)

答 $E_{\mathrm B}{}’=0$(5点)

(値は (ii) の $E_{\mathrm A}$ と同じ。Aの電気量が変わらないので、電場も変わらない)

別解

(3)(i) (合成容量の公式から) Aの電気容量は $C_{\mathrm A}=\varepsilon_{\mathrm A}\dfrac{S}{d_{\mathrm A}}$、Bは $C_{\mathrm B}=\varepsilon_{\mathrm B}\dfrac{S}{d_{\mathrm B}}$。直列の合成容量は

$$\frac{1}{C_{\mathrm{AB}}}=\frac{1}{C_{\mathrm A}}+\frac{1}{C_{\mathrm B}}=\frac{d_{\mathrm A}}{\varepsilon_{\mathrm A}S}+\frac{d_{\mathrm B}}{\varepsilon_{\mathrm B}S}\qquad\therefore\ C_{\mathrm{AB}}=\frac{\varepsilon_{\mathrm A}\varepsilon_{\mathrm B}S}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}$$

本解の「電場×間隔の和」は、この公式の中身をそのまま書いたもの。

(3)(ii) (直列の電圧は容量の逆比) 直列の2つは電気量が等しいので、電圧は電気容量の逆比。

$$V_{\mathrm A}:V_{\mathrm B}=\frac{1}{C_{\mathrm A}}:\frac{1}{C_{\mathrm B}}=\frac{d_{\mathrm A}}{\varepsilon_{\mathrm A}}:\frac{d_{\mathrm B}}{\varepsilon_{\mathrm B}}=\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}:\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}$$

よって $V_{\mathrm A}=\dfrac{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}V$ で、 $E_{\mathrm A}=\dfrac{V_{\mathrm A}}{d_{\mathrm A}}$。 $E_{\mathrm B}$ も同じ。

(3)(ii) (電位を置く) 接地を0とすると、Aの上の極板の電位は $V$。島の電位を $x$ とおき、電荷=容量×(自分の電位−向かい合う極板の電位)で島の合計を書くと

$$C_{\mathrm A}(x-V)+C_{\mathrm B}(x-0)=0\qquad\therefore\ x=\frac{C_{\mathrm A}}{C_{\mathrm A}+C_{\mathrm B}}V=\frac{\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}{\varepsilon_{\mathrm B}d_{\mathrm A}+\varepsilon_{\mathrm A}d_{\mathrm B}}V$$

$E_{\mathrm A}=\dfrac{V-x}{d_{\mathrm A}}$、 $E_{\mathrm B}=\dfrac{x}{d_{\mathrm B}}$ で本解と同じ答え。つなぎかえが複雑になっても使える置き方。

出題意図

(1) 静電気の基本の語句(帯電・静電誘導・絶縁)と、オームの法則・電流と電気量の関係 $Q=It$ が理解できているか

(2) 電気力線が等電位線と直角に交わり、電位の高い方から低い方へ向かうことが理解できているか

(3)(i)(ii):直列のコンデンサーでは電気量が等しいことから、誘電体の中の電場と電圧を求めることができるか。

(3)(iii):スイッチの切りかえで孤立する部分(島)を見つけ、電気量が保存されることから電場を求めることができるか。

講評

難易度標準
目標得点40点
目標時間15分

(1) は標準的な知識問題と、電流が電気量の時間変化であること(電流が一定なら電気量=電流×時間)だけで解ける。
(2) は電気力線が等電位線と直交することを知っていれば、丁寧に作図するだけ。
(3) は Q・C・V を丁寧に追っていくよくある問題で、良問の風のレベルで確実に取りたい。
どれも鹿大医の合格者なら絶対に解いてほしい問題なので、満点を狙い、最低でも8割は取り切ろう。

差がつく所・失点しやすい所

  • (3)(iii):$\mathrm{S_1}$ を開くとAの上の極板が孤立して $+Q_0$ のまま、という島の見方ができるか。「 $\mathrm{S_2}$ を閉じるとAも放電する」「AとBで電気量を分け合う」と考えると、ここだけ落とす。
  • (2):bからの電気力線を、導体板の上の面から垂直(真上)に出して弧で書けるか。等電位線と直角に交わっていない線や、Bの右の面に回りこむ線は誤り。

コラム 雷はコンデンサーの放電

この大問の (1) は、雷を「雲と地面でできた巨大なコンデンサー」と見ている。

雷雲の中では、強い上昇気流で運ばれた霰(あられ)と氷晶(雲の中の細かな氷の結晶)がぶつかり合い、そのときに電荷が分かれると考えられている(気象庁の説明)。典型的な夏の雷雲では、正の電荷が雲の上層部に、負の電荷が下層部に集まる(冬の日本海側の雷雲では分布が違うことがある)。負の電荷を持った下層部が地面に近づくと、静電誘導で地面の表面に正の電荷が現れる(問題文の②)。

2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 コラムの図
2025年鹿児島大学医学部物理 第3問 コラムの図

こうして、雲の下層部と地面が向かい合う極板、間の空気が極板の間の絶縁体になる。雲の中で電荷が増えるほど電位差は大きくなり、限界を超えると空気の絶縁が破れて(問題文の③)、一気に電荷が流れる。これが落雷で、コンデンサーにたまった電荷が導線なしで放電する現象と同じ。問題の数値(電位差 $1.0\times10^{9}\ \mathrm V$、電流 $1.0\times10^{5}\ \mathrm A$、 $1.0\times10^{-3}\ \mathrm s$)で計算すると、一瞬で $1.0\times10^{2}\ \mathrm C$ の電気量が移動している。

雷が高い建物や避雷針に落ちやすいのは、とがった所や出っぱった所では電気力線が集まり、電場が強くなるから。(2) の図でも、導体板の端(点bのあたり)では等電位線が板をぐるりと囲むように集まっていて、電場が強い。避雷針は、この性質を使って雷を安全な道(導線と地面)に流す装置。

雷のような身近な現象も、物理では「コンデンサー」「静電誘導」「放電」という教科書の言葉で説明できる。問題文が長くても、知っている物理の型に置きかえて読めば怖くない。

2025年鹿児島大学医学部物理
第4問 解答・解説

第4問は原子の問題です。
テーマは「α線・β線・γ線の正体と崩壊のしくみ(語句)、磁界の中での曲がり方(電荷の符号とローレンツ力)、半減期の式と常用対数、ウラン235から鉛207までのα崩壊・β崩壊の回数(質量数と原子番号の保存)」。

問題

2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 問題
2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 問題
問題文をテキストで読む

次の放射線に関する文章を読み、あとの問いに答えよ。

放射線には、$\alpha$ 線、$\beta$ 線、$\gamma$ 線がある。

・( ① )線は高エネルギーの電磁波である。

・( ② )線は原子核が( ② )崩壊するときに放出され、その正体は、質量数4、原子番号2の( A )の原子核である。

・( ③ )線は原子核中の中性子が( B )と( C )に変化し、( B )が原子核から飛び出す( ③ )崩壊のときに生じる。そのため、崩壊時に元の原子核は、質量数は変化せず、原子番号が1大きい原子核に変化する。

(厳密には反電子ニュートリノも生成されているがここでは無視する。)

(1) ①〜③にあてはまる語句を $\alpha$、$\beta$、$\gamma$ から選び答えよ。

(2) A、B、Cにあてはまる語句を答えよ。

(3) $\alpha$ 線、$\beta$ 線、$\gamma$ 線が、一様な磁界を磁界に対して垂直に横切るときのふるまいを表した文章として適切なものを次の中から選べ。

ア:すべて直進する

イ:すべて同じ向きに曲がる

ウ:$\alpha$ 線だけ直進し、残りは同じ向きに曲がる

エ:$\alpha$ 線だけ直進し、残りはそれぞれ逆向きに曲がる

オ:$\beta$ 線だけ直進し、残りは同じ向きに曲がる

カ:$\beta$ 線だけ直進し、残りはそれぞれ逆向きに曲がる

キ:$\gamma$ 線だけ直進し、残りは同じ向きに曲がる

ク:$\gamma$ 線だけ直進し、残りはそれぞれ逆向きに曲がる

(4) ある原子核の半減期が50日であるとき、この原子核の数が1/3になるまで何日かかるか答えよ。ただし、$\log_{10}2=0.30$、$\log_{10}3=0.48$ とする。

(5) ${}^{235}_{92}\mathrm{U}$ は( ② )崩壊をX回、( ③ )崩壊をY回行って、最終的に ${}^{207}_{82}\mathrm{Pb}$ になる。X、Yを答えよ。導出過程も記述すること。

解答の方針

【(1)〜(3)の方針】

着眼点

3つの放射線は、正体と電荷で整理する。γ線は高エネルギーの電磁波(光の仲間)で電荷をもたない。α線はヘリウム $\mathrm{{}^4_2He}$ の原子核で正の電荷 $+2e$、β線は原子核から飛び出した電子で負の電荷 $-e$。β崩壊では、原子核の中の中性子が陽子と電子に変わり、電子だけが飛び出す。陽子が1つ増えるので、質量数は変わらず原子番号が1増える(問題文のとおり)。

磁界の中を動く荷電粒子は、速度と磁界の両方に垂直なローレンツ力 $qvB$ を受け、これが向心力になって円運動する。力の向きは電荷の符号で逆になるので、電荷のないγ線は直進し、正のα線と負のβ線は逆向きに曲がる(下の図)。

2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 解答の方針の図
2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 解答の方針の図
  1. 文の手がかり(電磁波・質量数4で原子番号2・中性子の変化)から、①〜③と A〜C を決める。
  2. 3つの放射線の電荷(なし・正・負)から、曲がるかどうかと曲がる向きを決めて、(3) の選択肢を選ぶ。

【(4)の方針】

着眼点

半減期 $T$ ごとに原子核の数は $\dfrac12$ 倍になる。時間 $t$ の後の数は $N=N_0\left(\dfrac12\right)^{\frac tT}$。 $\dfrac13$ は $\dfrac12$ のべき乗ではきれいに表せないので、両辺の常用対数をとって $t$ を求める。与えられた $\log_{10}2$、 $\log_{10}3$ がそのまま使える形になる(下の図。 $\dfrac13$ は半減期1回分の $\dfrac12$ より少ないので、答えは50日より長い)。

2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 解答の方針の図
2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 解答の方針の図
  1. $\dfrac N{N_0}=\left(\dfrac12\right)^{\frac t{50}}=\dfrac13$ を立てる。
  2. 両辺の常用対数をとり、 $\log_{10}2=0.30$、 $\log_{10}3=0.48$ を代入して $t$ を求める。

【(5)の方針】

着眼点

α崩壊1回で質量数は4減り、原子番号は2減る。β崩壊1回で質量数は変わらず、原子番号は1増える。質量数を変えるのはα崩壊だけなので、まず質量数の差からα崩壊の回数が決まる。そのあと原子番号の差からβ崩壊の回数が決まる。崩壊の順番はわからなくても、回数の合計だけで質量数と原子番号が決まる(下の図)。

2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 解答の方針の図
2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 解答の方針の図
  1. 質量数の変化 $235-4X=207$ から $X$ を求める。
  2. 原子番号の変化 $92-2X+Y=82$ に $X$ を代入して $Y$ を求める。

解答

2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 解答・解説
2025年鹿児島大学医学部物理 第4問 解答・解説
解答をテキストで読む

(1)

γ線は高エネルギーの電磁波(光の仲間)である。

答(①) $\gamma$(3点)

質量数4、原子番号2の粒子(ヘリウムの原子核)が飛び出すのはα崩壊で、そのとき出る放射線がα線。

答(②) $\alpha$(3点)

中性子が陽子と電子に変わり、電子が飛び出すのはβ崩壊で、そのとき出る放射線がβ線。

答(③) $\beta$(3点)

(2)

質量数4、原子番号2の原子核は、陽子2個と中性子2個でできたヘリウム $\mathrm{{}^4_2He}$ の原子核。

答(A) ヘリウム(3点)

β崩壊では、中性子が陽子と電子に変わる。原子核から飛び出す(β線の正体になる)のは電子で、陽子は原子核に残る。陽子が1つ増えるので、原子番号が1大きくなる。

答(B) 電子(3点)

答(C) 陽子(3点)

(3)

磁界に垂直に動く荷電粒子は、速度と磁界の両方に垂直なローレンツ力(大きさ $qvB$)を受ける。この力は速度にいつも垂直なので、粒子は等速円運動をする。力の向きは電荷の符号で逆になる。

・γ線:電磁波で電荷をもたないので、ローレンツ力を受けず直進する

・α線(電荷 $+2e$)とβ線(電荷 $-e$):電荷の符号が逆なので、ローレンツ力が逆向きになり、逆向きに曲がる(着眼点の図)

(曲がり方の大きさは、円運動の運動方程式 $m\dfrac{v^2}{r}=qvB$ から $r=\dfrac{mv}{qB}$。α線は電子の約7300倍の質量をもつので半径が大きく、ゆるやかに曲がる。β線は軽いので小さな半径で大きく曲がる)

答 ク(8点)

(4)

半減期を $T=50$ 日とする。はじめの原子核の数を $N_0$、時間 $t$〔日〕後の数を $N$ とすると、 $T$ ごとに $\dfrac12$ 倍になるので

$$\frac N{N_0}=\left(\frac12\right)^{\frac t{50}}$$

これが $\dfrac13$ になるので

$$\left(\frac12\right)^{\frac t{50}}=\frac13$$

両辺の常用対数をとると

$$\frac t{50}\cdot(-\log_{10}2)=-\log_{10}3\qquad\therefore\ t=50\cdot\frac{\log_{10}3}{\log_{10}2}=50\cdot\frac{0.48}{0.30}=80$$

答 80日(12点)

(半減期1回分の50日で $\dfrac12$、2回分の100日で $\dfrac14$。 $\dfrac13$ はその間なので、50日と100日の間の80日は合う)

(5)

α崩壊1回では、ヘリウムの原子核 $\mathrm{{}^4_2He}$ が飛び出すので、質量数が4、原子番号が2減る。β崩壊1回では、中性子が陽子に変わって電子が飛び出すので、質量数は変わらず、原子番号が1増える。

質量数を変えるのはα崩壊だけなので、質量数の変化について

$$235-4X=207\qquad\therefore\ X=7$$

原子番号は、α崩壊で $2X$ 減り、β崩壊で $Y$ 増えるので

$$92-2X+Y=82$$

$X=7$ を代入して

$$92-14+Y=82\qquad\therefore\ Y=4$$

答(X) 7(6点)

答(Y) 4(6点)

(崩壊の順番によらず、回数の合計だけで質量数と原子番号が決まる。着眼点の図)

別解

(4) (半減期の回数で考える)  $\dfrac13=\left(\dfrac12\right)^n$ となる回数 $n$ を求めると、両辺の常用対数から $n=\dfrac{\log_{10}3}{\log_{10}2}=\dfrac{0.48}{0.30}=1.6$。半減期1.6回分なので $50\times1.6=80$ 日。本解と同じ計算を「半減期何回分か」と読みかえたもの。

出題意図

(1)(2) α線・β線・γ線の正体と、α崩壊・β崩壊で原子核がどう変わるかという教科書の知識が身についているか

(3) 放射線の電荷の有無と符号から、磁界の中での曲がり方を判断できるか

(4) 半減期の式を立て、常用対数を使って時間を求めることができるか

(5) 質量数と原子番号の変化から、α崩壊・β崩壊の回数を決めることができるか

講評

難易度やや簡単
目標得点50点
目標時間10分

この大問は知識問題と典型問題だけなので、確実に満点を取る。
教科書を読んで知識を確保し、良問の風の原子を完璧にしておけば十分に取れる。
共通テストの方が難しいくらいのレベルだ。
原子は後回しにされやすい分野だが、ここで落とした分はそのまま合否に響く。
原子にも対策の時間をきちんと割こう。

差がつく所・失点しやすい所

  • 差がつくとしたら、原子を勉強していたかどうか。全小問が知識問題と典型問題で、原子まで学習を終えていれば満点が取れる。原子を後回しにして試験を迎えた受験生だけが落とす大問。
  • (5):β崩壊では質量数が変わらない、という知識から、質量数の差だけでα崩壊の回数を先に決められるか。原子番号から先に考えると、未知数2つの式が1本しか立たない。

コラム 放射線と医療:PET検査と半減期

放射線は、医療の現場で毎日使われている。そのひとつが、がんの検査に使われる PET検査(陽電子放出断層撮影)だ。

  • 何を使うか:ブドウ糖によく似た薬(FDG)の一部を、放射性のフッ素18( $\mathrm{{}^{18}F}$)に置きかえたものを注射する。がん細胞はブドウ糖をたくさん取り込むので、薬ががんの所に集まる。
  • 何が出るか:フッ素18は、陽電子(電子と同じ質量で正の電荷をもつ粒子)を出して崩壊する。陽電子はすぐに近くの電子と出会って消滅し、反対向きに飛ぶ2本のγ線(電磁波)に変わる。この2本を体のまわりの検出器で同時にとらえ、どこで消滅したか(薬がどこに集まったか)を画像にする。
  • (3) とのつながり:陽電子は正の電荷をもつので、磁界の中ではα線と同じ向きに曲がる(β線の電子とは逆向き)。一方で、消滅して生まれるγ線は電荷をもたないので、磁界の中でも直進する。
  • (4) とのつながり:フッ素18の半減期は約110分と短い。この大問の (4) と同じ計算で、 $\dfrac13$ になるまでの時間は $110\times\dfrac{0.48}{0.30}\fallingdotseq176$ 分で、3時間ほどで $\dfrac13$ まで減る。だからPETの薬は、作ってから数時間のうちに使い切る必要がある。半減期が短いから体の中にも長く残らない、という利点にもなっている。

半減期の計算は、入試の中だけの話ではない。医学部を目指すなら、「この薬はあと何時間使えるか」という医療の問いと同じ計算だと思って、確実に解けるようにしておこう。

2025年鹿児島大学医学部・物理の
講評とまとめ

4問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。

大問難易度目標点
第1問標準40点
第2問標準40点
第3問標準40点
第4問やや簡単50点
合計170点

典型問題が中心のセット。
第1問は力を正確に図示すれば難しくなく、第2問の熱気球も良問の風・名問の森に同じ型の問題がある典型問題、第3問も Q・C・V を丁寧に追えば解ける。
差がつくとしたら、力を正確に図示できるかと、典型問題をしっかり網羅できているか。
第4問の原子は知識問題と典型問題だけなので、教科書と良問の風で確実に満点を取りたい。
原子を後回しにせず、対策の時間を割いておくこと。
目標は第1問〜第3問で8割以上、第4問で満点の170点。
また、第2問は2013年の問題の作り直しで、鹿大は過去問を作り直して出題する大学なので、古い年の過去問まで解いておく価値がある。

解く流れ

  • 第4問 → 第1問 → 第3問 → 第2問
  • 第4問は知識問題と典型問題だけで10分かからない。先に取り切って時間を浮かせる。第1問・第3問は典型問題で、方針に迷う所がない。第2問は (4) の説明と (5) のグラフに時間がかかるので最後に回し、浮いた時間を使う。

2025年鹿児島大学医学部・物理に
関するよくある質問

2025年の鹿児島大学医学部・物理について、よく聞かれる質問にお答えします。

2025年の鹿児島大学医学部・物理は難しかった?

標準的な年でした。
第1問〜第3問は標準、第4問はやや簡単です。
4題とも典型問題が中心で、新しい発想のいる小問はありません。

2025年の鹿児島大学医学部・物理は何点取れば合格できる?

目標点は170点です(200点満点)。

2025年の鹿児島大学医学部・物理はどこで差がつく?

第4問の満点と、第1問〜第3問の典型的な小問は取っておきたいところです。そのうえで、特に差がつくのは次の3つです。

  • 第1問 (5)(7):失われた運動エネルギー=動摩擦力×ずれた距離に気づけたか。すべり始めで静止摩擦係数 $\mu$ を使えたか。
  • 第2問 (4):上空では外の空気の密度も下がることまで入れて説明できたか。
  • 第3問 (2)(3):点bからの電気力線をかけたか。孤立した極板の電気量はそのままと読めたか。
2025年の鹿児島大学医学部・物理は何が出題された?

大問ごとの単元は、次のとおりです。

  • 第1問:力学
  • 第2問:熱力学
  • 第3問:電磁気
  • 第4問:原子

この記事を書いた人

ラ・サール高校から九州大学医学部医学科へ現役合格。医師国家資格所持するも、多くの受験生を難関大学に合格させるべく教育業界を選択。この度、自分の理想とする教育を生徒に少しでも提供するべく、個人で塾の開校に至る。
現役合格を目指し、熱い想いで指導に携わる。

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